ペットホテルのキャンセル料|いくらまで請求できる?「平均的な損害」とキャンセル規定の作り方
文:Damien·

連休前に予約で埋まっていた部屋が、前日になって空いてしまう。ほかのお客様の予約はすでにお断りしていて、もう埋まらない。ペットホテルやトリミングサロン、ペットシッターにとって、直前のキャンセルや無断キャンセルは避けられない悩みです。
では、キャンセル料はいくらまで請求できるのでしょうか。お客様が個人の場合、上限を決めるのは消費者契約法9条の「平均的な損害」です。規定に書いた金額でも、平均的な損害を超える部分は無効になります。この記事では、条文、裁判例、消費者庁の資料をもとに、キャンセル規定を作るときに押さえておきたい点を整理します。
キャンセル料の上限を決める消費者契約法9条
対象は個人のお客様との契約
消費者契約法は、消費者と事業者のあいだの契約に適用されます。消費者とは、事業のためではなく契約をする個人のことです(2条)。ペットホテルやトリミング、ペットシッターを予約する飼い主は、ほとんどの場合、消費者にあたります。
一方、ブリーダーやペットショップが動物を預ける場合など、お客様が事業者のときは、消費者契約法は適用されません。キャンセル料は民法の損害賠償額の予定(420条)として扱われ、公序良俗(90条)に反する金額でなければ、原則として合意した金額になります。
平均的な損害を超える部分は無効
消費者契約法9条1項1号は、キャンセルの際の損害賠償額や違約金をあらかじめ定める条項について、次のように定めています。
- 同じ種類の契約のキャンセルで、事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効になります。
- 平均的な損害は、条項で定めたキャンセルの理由や時期などの区分ごとに判断されます。
つまり、キャンセル料を「7日前」「前日」「当日」「無断キャンセル」のように時期で分けて定めた場合は、それぞれの区分ごとに、その時期のキャンセルで通常生じる損害を超えていないかが問われます。
平均的な損害に含まれるもの
裁判例では、平均的な損害に次のものを含める考え方が多く見られます。
- 逸失利益:キャンセルされた枠を、ほかのお客様で埋められなかったことによる利益
- 実費:キャンセルの時点ですでにかかった費用
ただし、キャンセルによってかからずに済んだ費用(フードや消耗品、ほかの仕事に回せたスタッフの人件費など)は差し引きます。また、キャンセルされた枠がほかのお客様で埋まる可能性も考慮されます。
京都地方裁判所の平成26年8月7日判決(結婚式場の予約をめぐる適格消費者団体の差止請求)は、民法416条を引いて、逸失利益を平均的な損害に含めることを認めました。
一方、広告費や営業にかかる費用など、キャンセルがなくても毎月かかる費用は、キャンセルによって生じた損害とはいえないと考えられます。2026年10月3日の弁護士ドットコムニュースの報道によると、東京地方裁判所の2026年9月29日判決も、広告費などを平均的な損害に含めませんでした。ただし、控訴が予定されているため、確定していません。
計算方法は法律で定められていない
平均的な損害をどう計算するかについて、法律には定めがありません。消費者庁の「消費者契約に関する検討会」の報告書(2021年9月)も、何を考慮すればよいかが条文から分からず、消費者と事業者の双方にとって分かりにくいことを指摘しています。そのうえで、考慮する要素として次のものを挙げています。
- サービスの対価
- キャンセルの時期
- 契約の性質
- キャンセルされた枠をほかの契約で埋められる可能性
- かかった費用を回収できる可能性
2023年12月からは、消費者庁の「解約料の実態に関する研究会」でも議論が続いていますが、平均的な損害について明確な基準は示されていません。ペットホテルやトリミングサロンに特有の目安もありません。
裁判例から見えること
立証責任はお客様の側にある
キャンセル料が平均的な損害を超えていることは、原則として、無効を主張するお客様が証明しなければなりません。最高裁判所の平成18年11月27日判決(大学の学納金返還訴訟)が、この考え方を示しています。
この判決は、平均的な損害は個々のお客様の事情ではなく、同じ種類の契約について一般的・客観的に判断するものだとしています。また、事実上の推定によってお客様の証明の負担が軽くなる場合があることも認めています。
キャンセル料の判断が示された主な裁判例
| 裁判例 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 最高裁 平成18年11月27日判決 | 3月31日までの入学辞退について、授業料などの返還を命じた | 大学は辞退を見込んでいるため、平均的な損害はないと判断。入学金は返還不要 |
| 東京地裁 平成17年9月9日判決 | 挙式の1年以上前のキャンセルで、予約金10万円を返還しない条項 | 具体的な損害は想定できないとして、条項を無効と判断 |
| 東京地裁 平成14年(レ)第12号 | 2か月前にキャンセルされた飲食店のパーティー予約 | 平均的な損害を料金の30%と認定(1人4,500円×35人で47,250円) |
| 京都地裁 平成26年8月7日判決 | 結婚式場のキャンセル料をめぐる適格消費者団体の差止請求 | 逸失利益を平均的な損害に含めると判断し、請求を棄却 |
飲食店の例では、料金の全額ではなく、利益にあたる部分だけが平均的な損害と認められています。早い時期のキャンセルほど、ほかのお客様で埋められる可能性が高く、認められる額は小さくなります。
説明を求められたら:算定根拠の概要を示す努力義務
2023年6月1日からは、お客様から求められた場合、キャンセル料の算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(消費者契約法9条2項)。
そのため、キャンセル料の根拠を1枚のメモにまとめておくと安心です。区分ごとに、次のような点を書いておきます。
- 稼働率
- その時期にキャンセルされた枠が、ほかのお客様で埋まる見込み
- キャンセルによってかからずに済む費用
- 繁忙期の影響(キャンセル待ちの有無や、お断りした予約の数)
お客様や消費生活センターから根拠を聞かれたときは、このメモをもとに説明できます。
なお、キャンセル料の支払いが遅れた場合の遅延損害金は、年14.6%が上限です(9条1項2号)。
段階的なキャンセル規定の作り方
キャンセルの時期で段階を分ける
法律で決まった割合はありませんが、キャンセルの時期に応じて段階を分ける規定が一般的です。実際のペットホテルの規定も、次のような形に近いものが多く見られます。
| キャンセルの時期 | キャンセル料の例 |
|---|---|
| 早い時期 | 無料 |
| 利用日が近づいてから | 料金の30%程度 |
| 直前 | 料金の50%程度 |
| 当日・無断キャンセル | 料金の100% |
それぞれの段階を何日前で区切るかは、事業者が決めます。ほかのお客様で枠を埋められる見込みが下がる時期に合わせて区切ると、根拠を説明しやすくなります。
料金の100%を請求するのは、当日キャンセルや無断キャンセルのように、ほかのお客様で埋めることができない場合にとどめるのが安全です。
トラブルになりやすい規定
次のような規定は、平均的な損害を超えるとして、無効と判断される可能性があります。
- 料金の100%を超えるキャンセル料(無断キャンセルは120%など)
- 繁忙期ではないのに、1週間前のキャンセルから料金の100%を請求する
- 予定より早くお迎えに来た場合に、残りの日数分を一切返金しない
また、お客様の利益を一方的に害し、信義誠実の原則に反する条項は、平均的な損害とは別に、消費者契約法10条によって無効になります。
繁忙期のキャンセル料
ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの繁忙期について、キャンセル料の扱いを示した裁判例は見当たりません。早い時期から100%を請求する規定は、その時期の枠がほかのお客様で埋まらないことを示せる場合に限って、説明がつくと考えられます。
繁忙期の料金やキャンセル料を別に定める場合は、対象となる日付を毎年はっきりと公表しておきましょう。
予約時に受け取るお金の呼び方をそろえる
予約時に受け取るお金は、「手付金」ではなく、使い方が分かる名前で書いておくと、お客様との認識のずれを防げます。たとえば、次のように記載します。
ご予約金(ご利用料金に充当します。キャンセルの場合は、キャンセル料を差し引いて返金します)
東京地裁の平成17年9月9日判決のように、キャンセルの時期にかかわらず予約金を返さない条項は、無効と判断されることがあります。
キャンセル規定をお客様に示す方法
予約の前に示して、同意を得る
キャンセル規定は、予約の前にお客様に示して、同意を得ておく必要があります。ウェブサイトに掲載した利用規約に同意してもらう形をとる場合は、民法の定型約款のルールが適用されます(民法548条の2)。
次のように、お客様の目に触れるところすべてに記載しておくと確実です。
- ウェブサイト
- 予約フォームと、予約を確定する前の確認画面(同意のチェックボックスを設ける)
- 予約確認のメールやLINEのメッセージ
- 初めての来店時に署名してもらう書面
電話で予約を受けた場合は、あとからメールやLINEなどで、キャンセル規定を文字で送っておきましょう。
インターネットで予約を受け付ける場合
インターネットで予約を受け付ける場合は、特定商取引法の通信販売のルールにも注意が必要です。広告に契約の解除に関する事項を表示するとともに(特定商取引法11条)、申込みを確定する最終確認画面にも表示しなければなりません(12条の6)。ウェブサイトの「特定商取引法に基づく表示」のページにも、キャンセル規定を記載しておきましょう。
一方、動物愛護管理法には、保管業者に対して料金やキャンセルについての説明を求める規定はありません。
キャンセルの受付時刻を決めている場合
「前日の18時まで」のように時刻で区切る場合は、お客様がいつでもキャンセルを伝えられる方法を用意しておきます。受付フォーム、メール、LINEなど、連絡を受けた時刻が記録に残る方法がおすすめです。
キャンセル料を請求しない場合を決めておく
キャンセル規定には、キャンセル料を請求しない場合や、減額する場合も書いておきましょう。たとえば、次のようなケースです。
- 事業者の都合でキャンセルする場合:受け取った金額を全額返金する
- 災害などで、施設がサービスを提供できない場合:キャンセル料を請求しない
- 動物が死亡した場合や、獣医師の診断書がある病気の場合:キャンセル料を免除または減額するか、手数料なしで日程を変更する
あわせて、ワクチン接種やノミ・ダニの予防、感染症など、受け入れの条件も規定に書いておきます。条件を満たさずに受け入れをお断りした場合は、当日キャンセルとして扱うことを明記しておくと、トラブルを防げます。
⚠️ 次のような条項は、規定から外しておきましょう。
- 「当店の都合によるキャンセルでも、一切責任を負いません」
- 「お引き取りがない場合は、動物の所有権を無償で当店に譲渡したものとします」
- 以前に利用したサービスの料金をもとにキャンセル料を計算する条項
➜ あわせて読みたい: ペットの預かり契約書|事前説明は義務?「一切責任を負いません」が無効になる理由
消費者契約法の見直しの動き
キャンセル料のルールを含む消費者契約法の見直しが議論されています。2026年9月10日に見直しの中間取りまとめが公表され、10月31日まで意見募集が行われています。ただし、法案はまだ提出されておらず、キャンセル料のルールが変わるかどうかは決まっていません。
議論の中には、平均的な損害の立証責任を事業者の側に移す案もあります。そうなった場合は、キャンセル料の算定根拠をまとめたメモが、いっそう重要になります。
izyPetでできること
izyPetでは、キャンセルに関する次の設定ができます。
- お客様によるキャンセル:お客様がizyPetのアカウントから予約をキャンセルできるようにするか、サービスの何日前までキャンセルできるようにするか、事業者への連絡を必要にするかを選べます。
- 前払金:予約を承認して契約書を作成するときに、料金の割合または定額で前払金を設定できます。金額は契約書に記載され、前払金の請求書も発行できます。
- キャンセル規定への同意:契約書には、事業者の利用規約へのリンクを載せられます。お客様の署名欄には、利用規約を読んで同意する旨が記載されます。署名時に表示するチェック項目を3つまで設定でき、たとえば「キャンセル規定に同意しました」という項目を必須にできます。必須の項目にチェックがない場合は、署名できません。キャンセル規定そのものを、契約書の追加情報の欄に記載することもできます。
ただし、izyPetではキャンセル料の計算や請求は自動では行いません。キャンセルの時期に応じた金額は、事業者が請求書を作成して請求します。また、オンライン予約の画面には、キャンセル料の規定は自動では表示されません。予約の前にお客様に示すために、ウェブサイトにも掲載しておきましょう。規定の内容が消費者契約法に適合しているかどうかの確認も行いません。
契約書には「この契約を確定するには、○円の前払金が必要です」と記載されます。前払金を利用料金に充当することや、キャンセルの場合はキャンセル料を差し引いて返金することは、追加情報の欄に書き添えておきましょう。
➜ 詳しくは: 見積・請求・入金の管理
まとめ
- キャンセル料のうち、平均的な損害を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項1号)。
- 平均的な損害には、ほかのお客様で埋められなくなった利益と実費が含まれ、かからずに済んだ費用は差し引きます。
- キャンセルの時期で段階を分け、100%を請求するのは当日・無断キャンセルにとどめるのが安全です。
- 算定根拠をメモにまとめておけば、お客様から求められたときに説明できます(同法9条2項)。
- キャンセル規定は、予約の前に示して同意を得ておきます。インターネットで予約を受け付ける場合は、最終確認画面にも表示します。
- 事業者の都合でキャンセルする場合の全額返金など、キャンセル料を請求しない場合も規定に書いておきます。
よくある質問
無断キャンセルの場合、料金の何%まで請求できますか?
法律で決まった割合はありませんが、ほかのお客様で枠を埋められない当日キャンセルや無断キャンセルであれば、料金の100%を定めている例が多く見られます。100%を超える金額は、平均的な損害を超えるとして無効になる可能性があります(消費者契約法9条1項1号)。
予約金を返さないと規定に書いても有効ですか?
キャンセルの時期にかかわらず返さないという規定は、無効になる可能性があります。東京地裁の平成17年9月9日判決は、1年以上前のキャンセルで予約金10万円を返さない条項を無効としました。時期に応じたキャンセル料を差し引いて返金する形にしておくのが安全です。
繁忙期だけキャンセル料を高くしてもよいですか?
繁忙期のキャンセル料について判断した裁判例は見当たりません。キャンセルされた枠がほかのお客様で埋まらないことを示せる場合に限って、説明がつくと考えられます。対象となる日付は、毎年はっきりと公表しておきましょう。
予定より早くお迎えに来た場合、残りの日数分の料金は返金しなければなりませんか?
一切返金しないという規定は、平均的な損害を超えるとして無効と判断されるおそれがあります。残りの日数のうち、ほかのお客様で埋められない分や、すでにかかった費用を差し引いて返金するなど、扱いを規定に書いておきましょう。
お客様からキャンセル料の根拠を聞かれたら、答えなければなりませんか?
算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(消費者契約法9条2項)。稼働率やキャンセルされた枠が埋まる見込みなどを、区分ごとにメモにまとめておくと説明しやすくなります。
ブリーダーなど、事業者のお客様にも同じルールが適用されますか?
適用されません。消費者契約法は、消費者と事業者のあいだの契約が対象です。お客様が事業者の場合は、民法の損害賠償額の予定(420条)として扱われ、公序良俗(90条)に反しない限り、合意した金額が原則となります。
⚠️ この記事は、個別の事案に対する法的助言を提供するものではありません。 2026年10月17日時点で確認できた法令と公的資料をもとに、一般的な内容をまとめています。平均的な損害の具体的な計算方法、繁忙期のキャンセル料、トリミングやペットシッターの契約の性質など、解釈が分かれる点や、裁判例のない点もあります。東京地裁の2026年9月29日判決は確定していません。消費者契約法の見直しは議論の途中で、この時点で改正は成立していません。キャンセル規定を作成する際は、弁護士や最寄りの消費生活センターにご相談ください。
🔗 出典
- 消費者契約法(e-Gov法令検索) 消費者と事業者の定義(第2条)、キャンセル料と遅延損害金の上限、算定根拠の説明(第9条)、消費者の利益を一方的に害する条項の無効(第10条)。
- 民法(e-Gov法令検索) 公序良俗(第90条)、損害賠償の範囲(第416条)、損害賠償額の予定(第420条)、定型約款(第548条の2)。
- 特定商取引に関する法律(e-Gov法令検索) 通信販売の広告の表示(第11条)、最終確認画面の表示(第12条の6)。
- 動物の愛護及び管理に関する法律(e-Gov法令検索) 第一種動物取扱業者の義務。
- 消費者庁「消費者契約に関する検討会」資料 平均的な損害の考え方。
- 消費者庁「消費者契約に関する検討会」報告書(消費者委員会資料、2021年9月) 平均的な損害を判断するときの考慮要素。
- 消費者庁「解約料の実態に関する研究会」資料 解約料をめぐる論点。
- 消費者委員会資料(最高裁平成18年11月27日判決の解説) 平均的な損害の立証責任。